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神戸地方裁判所 昭和61年(行ウ)27号 判決

原告 角田隆美

右訴訟代理人弁護士 松本晶行

同 北尻得五郎

同 吉川実

同 桂充弘

被告 黒田庄町

右代表者町長 宮崎輝夫

右指定代表人 源孝治 外四名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

一  請求の趣旨

被告が農業振興地域の整備に関する法律八条の規定に基づき、昭和六一年六月二七日付で兵庫県知事の認可を受けて定めた農業振興地域整備計画のうち、別紙目録記載の農地にかかる部分の農用地利用計画を取り消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求原因

1  本件処分

被告は、昭和六一年一月二一日、黒田庄町公告第三号により、黒田庄農業振興地域整備計画を変更し、定めるとして、農業振興地域の整備に関する法律(以下「法」という。)一三条三項において準用する法一一条一項の規定により、当該農業振興地域整備計画のうち農用地利用計画(以下「本件計画」という。)の案を昭和六一年一月二一日から同年二月二〇日まで縦覧に供する旨公告した。原告は昭和六一年三月七日右につき異議申出をしたが、被告は、昭和六一年三月一一日、「本件異議申出を棄却する」との決定した。被告は、右農用地利用計画につき、兵庫県知事から認可を受けて、同計画を決定した(以下「本件処分」という。)。

2  原告の地位

原告は、別紙目録記載の農地(以下「本件農地」という。)を所有している。同農地は、本件計画によると、農用地区域内にある。

3  本件処分の違法性

(一)  手続的違法性

(1)  被告は、本件計画の決定に先立ち、所有者にその説明をしたうえでその意向を確認すべき義務を負っていたにもかかわらず、原告について右義務を懈怠した。

(2)  被告は、本件計画の案を縦覧に供していない。

(3)  被告は、原告の前記異議申出について、原告が不服理由を正しく整理し主張できるよう原告に釈明を求める義務を負っていたにもかかわらず、これを懈怠した。

(二)  実体的違法性

本件農地は、本件処分までは農用地から除外されていたため、原告は、同農地を将来宅地として利用することについて期待権を有するに至った。本件処分は、原告のこの期待権を侵害した。

三  当裁判所の判断

1  農地利用計画の処分性について

市町村の定める農業振興地域整備計画の中で定められる農用地利用計画は、農用地として利用すべき土地の区域(農用地区域)とその区域内にある土地の農業上の用途区分を設定するものであり(法八条二項一号)、その計画が決定されると、市町村長は、農用地区域内にある土地の所有者に対し、その土地を農用地利用計画において指定した用途に供すべき旨を勧告することができ(法一四条)、都道府県知事は、右勧告に従わない者とその土地を右の用途に供するため所有権等を取得しようとする者で市町村長の指定を受けた者との間の所有権等の移転につき必要な調停を行うことができ(法一五条)、特定利用権の設定に関する協議を求められ(法一五条の七ないし一四)、農用地区域内における開発行為が制限され(法一五条の一五)、国及び地方公共団体は、農用地利用計画を尊重して、農用地区域内にある土地の農業上の利用が確保されるように努めなければならず(法一六条)、また農林水産大臣及び都道府県知事は、農用地区域内にある農地等の転用許可に関する処分を行うに当たっては、農用地利用計画において指定された用途以外の用途に供されないようにしなければならない(法一七条)ことになる。したがって、同計画の決定は土地所有者等の権利義務ないし法的地位に具体的な変動を生じさせるものであり、しかも、用途区分は、個々の土地の状況に着目してきめ細かく定めることが予定されているものであるから、一般処分ということもできない。そうすると、同計画の決定は、処分性を有するものというべきである。そして、農用地利用計画の変更による整備計画の変更の決定についても、これがされると、農用地区域の編入若しくは除外又は用途区分の変更がされるわけであるから、やはり、処分性を認めるべきである。かくして、本件処分(農地利用計画の変更)の処分性は、肯認すべきである。

2  手続的違法性について

〈証拠〉によれば、本件計画の変更につき、昭和六一年一月二二日から同年二月二〇日までの三〇日間、同計画案を縦覧に供したこと、原告は、右縦覧期間の満了日である同年二月二〇日、被告町役場を訪れ、関係書類の閲覧を申し出たが、担当職員が会議出席中で離席していたため、これを果たせず、そのまま右縦覧期間を経過したことが認められ、以上によれば、右担当職員の対応に若干不親切な点は窺えるものの、それは三〇日間の縦覧期間のうちのわずかの期間のことであり、全体として、法一三条三項、一一条一項の定める縦覧はなされたと評価することができる。

請求原因3(一)の(1) 及び(3) にいう被告の主張は、何ら実定法上の根拠を有しない。

3  実体的違法性について

請求原因3(二)の主張は、本件処分により原告の権利ないし法律上の利益が侵害されたと言うにとどまり、右の違法性の根拠に言及しないので失当である。

4  結論

他に本件処分の違法性を窺わせる事由はないので、本件処分は適法である。

よって、本訴請求を棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 林泰民 裁判官 岡部崇明 裁判官 井上薫)

別紙〈省略〉

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